広瀬旭荘 新年宴親姻十首  (新年 親姻を宴す 十首) 内六首
 
この詩は旭荘27歳の新年の詩です。この数年前、兄の広瀬淡窓が隠居し、その後を継いで日田の咸宜園を監督するようになっています。
 旭荘は長編の叙事詩が得意ですが、この詩も編を分けていますが長編の詩の気分がありますね。
 参考図書には六首しか採られていませんでしたが、この後も読んでみたいですね。


(一)
夢裡聞嚶嚶  夢裡 嚶嚶を聞く
欹枕悵然久  枕を欹(そばだて)て 悵然たること久し
看彼春林巓  彼の春林の巓を看るに
啼鳥亦求友  啼鳥も亦た友を求む
呼硯作折柬  硯を呼びて 折柬(せっかん)を作り
所招者某某  招く所の者は某某


折柬:短い手紙
某某:父、叔父、兄(淡窓など三名)


(二)
室人来責我  室人来りて我を責む
君唯耽作詩  君は唯だ作詩に耽る
春昼未甚永  春昼 未だ甚しくは永からず
已近客至時  已に客の至る時近し
包中無一物  包中 一物も無し
割烹欲委誰  割烹 誰に委ねんと欲するや  

(三)
命僕走江肆  僕に命して 江肆に走らす
庶幾得鮮魚  庶幾(こいねが)わくば 鮮魚を得んことを
日午猶不返  日午 猶 返らず
有無定何如  有無 定めて何如(いかん)
愀然自外入  愀然として外より入り
歳首未釣魚  歳首 未だ釣魚せずと

(四)
五六人童子  五六人の童子
各各擁篲来  各各 篲(ほうき)を擁して来る
桔槹声不断  桔槹(けっこう)の声 断えず
灌水伏浮埃  水を灌いで 浮埃を伏せしむ
唯抜庭上草  唯 庭上の草を抜け
莫破庭上苔  庭上の苔を破る莫かれ


桔槹:つるべ

(五)
各被世営絆  各おの 世営に絆(つな)がれ
終年逢幾回  終年 逢うこと幾回ぞ
一人不在坐  一人 坐に在ざれば
歓心或成灰  歓心 或いは灰と成る
独悦今日宴  独り 今日の宴を悦ぶ
伯仲叔季来  伯仲叔季 来る

(六)
平生非無客  平生 客無きに非ざれども
団欒似箇稀  団欒 箇(かく)の似(ごと)きは稀なり
且欲紀盛会  且(いささ)か 盛会を紀(しる)さんと欲し
請君莫曰帰  請う 君 帰ると曰う莫れ
剪紙分韻字  紙を剪りて韻字を分たん
東冬江支微  東冬江支微


東冬江支微:参加者が上平声「一東」「二冬」「三江」「四支」「五微」の一つずつ韻を分担して記念の詩を作った。

参考図書
 日本漢詩人選集16 広瀬旭荘 大野修作著 研文出版元好問


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